草原に立つ小磯知之

まちの未来は、
まちの中にある。

#001

社会インフラデザイン部
企画部門 企画部門長
小磯知之

雲南から米沢へ。
再生可能エネルギーが
つながっていく。

その歩みは、通信から始まった。小磯は、2006年にNTT東日本へ入社し、福島支店、本社勤務を経て、やがて東日本大震災を経験する。被災した地域の復興支援に追われる中で、人と地域のつながりの持つ力を目の当たりにした。その後、内閣府へ出向。地方創生やNPO支援に携わりながら全国各地を訪ね歩いた。行政、NPO、住民、それぞれが地域を思いながらも、同じ方向を向くことの難しさを知る。「地域には、それぞれの歴史と事情があるんです」。その言葉の背景には、この時期の経験がある。さらに社内の留学制度を利用し、スペインへ留学。社会的起業について学んだ。そこで強くなったのは、「地域の人が始めたいことを後押しする仕事がしたい」という思いだった。

転機となったのは、NTT MEがエネルギー事業へ挑戦することになったことだ。その実践の場として出会ったのが、島根県雲南市だった。人口約3万5千人の中山間地域。小磯は地域の電力会社の立ち上げに関わる一方で、まちにある地域自主組織を一つひとつ訪ね歩いた。時には祭りの準備を手伝い、時には高齢者施設の相談に乗り、地域の課題に耳を傾け続けた。「まずは地域の一員になること」。その姿勢は、次第に住民からの信頼へと変わっていく。やがて新しい電力会社は、行政や住民から支持を集め、地域に受け容れられ事業として成長した。雲南で得たものは、けっして成功体験ではない。地域ごとに課題も文化も違うという当たり前の事実だった。そして、その土地の人たちの声に耳を傾けることこそが、すべての出発点であるという確信だった。その経験を携え、小磯は新たな舞台である米沢へと向かった。

それぞれのまちには、
それぞれの歴史と物語
がある。

米沢との縁は、突然生まれたものではない。環境省の脱炭素先行地域事業への応募段階から、米沢市に隣接する飯豊町とともに計画づくりに携わり、地域の未来について議論を重ねてきた。そして現在、米沢市では公共施設を中心とした太陽光発電設備の整備が本格的に始まろうとしている。水道施設の空き土地や公共施設の屋根などを活用しながら、地域の脱炭素化を進めていく計画だ。飯豊町でも遊休土地の活用を計画している。特徴の一つは、豪雪地帯ならではの設計にある。雪による影響を考慮した設備設計に加え、一部では垂直型パネルの導入も検討されている。積雪時でも発電を継続できる機能性を探る取り組みだ。また、今後は民間事業者や住民向けの展開も予定されている。地域の企業や施設と連携しながら、米沢・飯豊らしい再生可能エネルギーのモデルをつくり上げていく。

小磯は、ここでも着任後に対象地域のコミュニティセンターを訪ね歩き、地域の歴史や文化について話を聞いて歩いた。米沢牛の生産、紅花栽培の歴史、農業の現状、地域行事の継承、人口減少への不安。それぞれの地域には、それぞれの物語がある。「同じ課題に見えても、中身はまったく違う」。だからこそ、地域ごとの特性を理解しながら事業を進めていくことが欠かせないという。脱炭素という大きなテーマの中で、米沢ならではのエネルギーのあり方を形にしていく。その挑戦が、いま始まろうとしている。

まちの未来を決めるのは、
そのまちで暮らす人だ。

「電気をつくることだけが目的ではありません」。その言葉に、小磯の考え方が凝縮されている。目指しているのは、発電量を増やすことでも、売上を伸ばすことでもない。地域で生まれた価値を地域に残し、人や仕事を育てながら循環させていくことだ。いわゆる地域経済循環を実現することが目標なのである。たとえば空き家の活用。たとえば農業の支援。たとえば観光客を受け入れる仕組みづくり。地域の中で新しい挑戦が生まれれば、人が動き、お金が回り、新たな可能性が育っていくのだ。

そのために必要なのは、外から答えを持ち込むことではない。「米沢をこういうまちにしたい、という考えはありません」。小磯はそう言い切る。まちの未来を決めるのは、その土地で暮らす人たちだからだ。地域づくりとは、誰かが理想を押し付けることではなく、その地域の人たちが望む暮らしを実現するための伴走者になることだと考えている。だからこそ大切なのは対話である。何をつくるのかではなく、どんな暮らしを望むのか。何を売るのかではなく、誰と歩むのか。通信会社として長年地域と向き合ってきたNTTグループ。その歴史を受け継ぎながら、小磯は新しい時代の地域との関係性を築こうとしている。

「地域と関わり続けるためには、私たちも変わらないといけないんです」。その言葉の先にあるのは、エネルギー事業を超えた新たな価値づくりへの挑戦だ。雲南で学び、米沢・飯豊で実践する。その歩みの先にあるのは、住民が自らの力で未来を描き続けられる地域社会である。

このまちには、小磯知之がいる。

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